正月の松もとれて少しづつ陽も延びてきましたが、まだまだ寒さは厳しいですな。
しかし、熱海 糸川沿いの桜は間もなく満開の時を迎えようとしています。
ところで、昔からの温泉場というのは、古き良き時代には色町としても栄えていたといいます。
最近は、若い人たちの間でも江戸 新吉原や京 島原が注目を集めているように、かつて禁忌とされていた色町の様子が話題に上ることも多くなりました。
お上に認められた、いわゆる公娼といえば、先の吉原や島原と並んでわがふるさとしずおかの『二丁町』もその名を知られた存在です。
江戸が明治に変わり、さらに敗戦を迎えると、GHQは公娼廃止令を発布します。
しかし、かの地では半ば公然と営業が続けられ、これらは『赤線』と呼ばれるようになりました。
警察が管理のために伝統的な遊郭地帯を地図上で赤く囲ったことからこの名がついたのだといいます。
これに対して『青線』は昔の岡場所みたいな“非合法の色町”を指すとか。
日本では、58年に売春禁止法が施行されて、表向きにはこれらの営業は全面的に禁止されますが、赤い線や青い線で囲われた多くの町はその佇まいを平成の今に残しています。
貸座敷、玉の井、鳩の街、酩酊屋、カフェー街なんてキーワードを目にすると、なんとなくノスタルジーを感じます。
湯の町 熱海でも、糸川沿いをそぞろ歩くと、そこかしこにノスタルジックなカフェー建築を見つけることができます。色町の名残ですな。まぁ、名残というよりも、かつてのカフェーが看板を架け替えて今も現役バリバリの建物として使われているんですけどね。
ひとたび入り組んだ細い路地を曲がれば、そこはまるで昭和の迷宮。
『墨東奇譚』で永井荷風が歩いた玉の井のカフェー街のような風景が広がって、かつてのカフェーの玄関先に並べられた小さな鉢植えは、モノクロームの写真の中で赤いチューリップの花を咲かせています。
しかし、現実にはそんなカフェー建築も時の流れには抗えず、櫛の歯がかけるように、一軒、また一軒と取り壊され、かつて賑わいを見せたカフェー街はあちこちに空き地が目立つようになりました。
それがまた郷愁を誘うんですね。
近頃、かつての輝きを取り戻しつつある熱海。
メジャーな観光地だけでなく、ここにはこんなセンチメンタルな見どころもあるのです。
で、おまけは、その糸川近くの老舗ラーメン店『わんたんや』。
本blogには2度目の登場ですが、ここはいつ行っても満員御礼。
さっぱりしたスープが際立った、まさに王道をいく一品。
ディープな熱海の象徴のひとつです。